ミステリに特化した文学賞まとめ。主な受賞者やおすすめの受賞作品。

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直木賞や芥川賞、本屋大賞……。

文学界には、さまざまな賞があります。

その年を代表する傑作の発表を、毎年楽しみに待っている方も多いのではないでしょうか。

数々の文学賞の中でも、とくに世間を賑わせるのがミステリ関連の各賞です。

年末恒例のファン人気投票から本格派の作家が選ぶ通好みの作品まで、選考のスタイルも受賞作品の性格もさまざま。

傾向の違う受賞作品を見ているだけで、ミステリというジャンルの奥深さを感じられます。

こういった「賞もの」の楽しみは、話題性だけではありません。

何を読めばいいの?と迷ったときにも、読書の手がかりとして役に立ちます。

他人の物差しを利用するのに抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、あえて客観的なスタンスで世間の評価を覗いてみるのもひとつの手。

自分では選ばないような意外な良作に巡りあえるかもしれません。

多くの人から高い評価を受けた作品は、いわばクオリティが保証されているようなものです。

読んで「失敗した!」なんて後悔する確率も低く、またたくさんの人が読んでいる「共通項」であるため、同好の士と語り合うにも便利といえます。

そこで以下では、ミステリに特化した文学賞を集めてみました。

国内の有名な賞の中から著名なものをチョイスし、その歴史とオススメの作品をいくつかご紹介しています。

読書の指針としてお役立てください。

江戸川乱歩賞

概要

半世紀以上の歴史をもつ、ミステリ関連の賞の中でももっとも権威ある賞です。

その名の通り、江戸川乱歩の資金提供により設立されました。

1954年の設立以来、安定してミステリ界をリードする「ミステリ賞の代名詞」であり、現在は日本推理作家協会が選考委員会を主催しています。

受賞者の顔ぶれがとにかくすごいのがこの賞の特徴。

長い歴史の中で、日本を代表するビッグネームを次々と生み出してきました。

選考委員を務めた阿刀田高も、自著のエッセイの中で「歩留まりが高い賞」とユーモラスにこの賞を称えています。

乱歩賞の歴史は日本のミステリの歴史といっても過言ではありません。

ミステリ初心者の方や、古典的な作品を読んで基礎固めをしたい方に、ぜひオススメしたい作品がそろっています。

主な受賞者

1955年度の第1回受賞作は、中島河太郎の評論「探偵小説辞典」でした。

出だしが小説ではなく評論だったというのは不思議に感じられますが、実は設立当時の乱歩賞の目的は「探偵小説を盛り上げる」こと。

文学賞という限定的なものではなかったのです。

翌年の第2回も小説ではなく「ハヤカワポケットミステリの創刊」という出版社に対する表彰となり、3回目以降ようやく現在の「小説を対象とした文学賞」の形に落ち着きました。

以来、多岐川恭(1958年)、西村京太郎(1965年)、森村誠一(1969年)、栗本薫(1978年)、東野圭吾(1985年)といった著名人がタイトルを受賞しています。

また、層の厚い賞だけにノミネートされた作家も多彩。

惜しくも受賞を逃した作家の中にも、笹沢佐保、夏樹静子、山村美紗、島田荘司、折原一などたくさんの人気作家がいます。

受賞作ピックアップ

たくさんの受賞作の中から選ぶのは難しいことですが、日本のミステリの歴史を概観する意味で、まずは1957年の第3回受賞作「猫は知っていた」(仁木悦子)をオススメします。

探偵役の仁木兄妹が息の合った名推理を披露するシリーズのひとつで、今読んでも古さを感じさせない名作です。

猫と子どもを多く描いた彼女の作風は、日本におけるコージー・ミステリの元祖ともいえそうです。

当時の世相を反映したものとして挙げたいのは、第43回受賞作「破線のマリス」(野沢尚)。

1997年の作品です。

映像加工技術を駆使して刺激的なニュース映像をねつ造する主人公が、やがてトラブルに巻き込まれる恐怖を描いて話題になりました。

フェイクニュースが世を騒がす今だからこそ読みたい、社会的な意義の高い一冊です。

メフィスト賞

概要

雑誌「メフィスト」から生まれたこの賞は、なんといっても、個性あふれる受賞者の顔ぶれが魅力です。

森博嗣、清涼院流水、舞城王太郎、西尾維新といった枠に収まりきらないタイプの作家がこの賞をきっかけにデビューしています。

新人賞ですが、毎回練りに練った応募作品が並び、そのクオリティの高さはとても新人の作品とは思えません。

年3回選考で賞金なし、授賞式なしという異色の形態をとっていることも、個性的な応募者を引き寄せる一因になっているのでしょう。

またジャンルとしてもミステリだけにとどまらず、ホラーやSFによった作品も多数登場する、とてもユニークな賞です。

デビュー後にシリーズ化した作品の第一作になる物語も多く、伝説のデビュー作といわれる名作を現在に至るまで多数輩出しています。

年によって多少の波はあるものの、日本のエンターテインメントを牽引する存在です。

主な受賞者

前述の受賞者のほかにも、高田崇史、霧舎巧、日明恩などデビュー後安定した活動を続ける通好みの作家が多数います。

設立当初は本格ミステリ系、伝奇もの、ホラーテイストのものが多くみられましたが、近年はライトノベル的な作品が増える傾向にあります。

また面白いのは1994年に「姑獲鳥の夏」でデビューした京極夏彦。

賞の創設は1995年で「姑獲鳥」はその前年に出版されています。

当然メフィスト賞を受賞しているはずはありません。

しかしメフィスト賞は彼の登場をきっかけに創設されたともいわれており、そのためファンの間では「姑獲鳥」は「第0回受賞作」と呼ばれています。

受賞作ピックアップ

「面白ければジャンルは問わず」というユニークな応募規定のため、昔も今も実験的な作品が多いメフィスト賞。

クセのある受賞者が多いだけに読む側も好き嫌いが大きく分かれ、万人にオススメできる作品を選ぶのは難しいところです。

そんな中、珍しい存在が2004年に「冷たい校舎の時は止まる」で第31回メフィスト賞を受賞した辻村深月です。

純文学や児童文学を思わせる作風からは意外ですが、デビューはメフィスト賞だったのですね。

受賞作「冷たい校舎の時は止まる」も、過酷な状況と不条理な謎の中にどこか彼女らしい空気を感じさせる名作です。

ちょっと変わったものが読みたい気分のときには、清涼院流水の「コズミック 世紀末探偵神話」はいかがでしょう。

1996年、第2回の受賞作です。

持ち運びが難しいほどの大部のページの中に、作中作も含めて10人以上の探偵役が登場。

トリックの粋を尽くした驚異のメタ・ミステリです。

これぞメフィスト賞!と言いたくなるような先鋭的なスピリッツが横溢する快作。

ぜひ、腰を据えて挑んでみてください。

本格ミステリ大賞

概要

ミステリの中でも、とくに「本格ミステリ」と呼ばれるジャンルに対象を限っているのがこの「本格ミステリ大賞」です。

本格ミステリ系の作家・評論家が参加する本格ミステリ作家クラブを運営母体として、年に1回投票による選考会が開催されています。

文学賞としては珍しく小説部門と評論部門の2部門があり、小説作品だけではなく、本格ミステリの普及に努力した批評家・ファンライターも評価されるのが特徴です。

本格に限った賞だけに受賞作品も本格的。

トリックや犯人当てを重視したオーソドックスなミステリを楽しみたい方には、うってつけの賞です。

主な受賞者

有栖川有栖、法月倫太郎などの新本格を代表する作家から、麻耶雄嵩、鳥飼否宇のようなちょっと変わった作品を提示する個性派まで、さまざまな顔ぶれが大賞を受賞しています。

その中でも共通しているのは、「本格」であること。

形はどうあれ、しっかりとしたミステリの構造をもつ作品が選ばれています。

たとえば第2回(2002年)受賞作の「ミステリ・オペラ」(山田正紀)は、全体にSF的なテーマをもちながらも本格ミステリの枠組みで評価されました。

芯にしっかりとしたものをもっている「本格ミステリ」の書き手であることが、受賞の条件といえそうです。

受賞作ピックアップ

当時話題になったものとしてぜひおさえておきたいのが、第6回(2006年)受賞作の「容疑者Xの献身」(東野圭吾)です。

前代未聞のアリバイトリックを用いた同作は、この年の本格ミステリ大賞のほか、直木賞と「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリベスト10」各1位も獲得しました。

もともと本格ミステリなのかエンターテインメントなのか評価が分かれる作家でしたが、この受賞により本格と広く認められました。

その後のベストセラー常連作家としての活躍は、記憶に新しいところです。

評論部門のオススメは「ニッポン硬貨の謎」(北村薫)です。

第6回(2006年)の評論部門で大賞を受賞してはいますが、実はこの作品は小説。

作中のエラリー・クイーン論と遊び心あふれる設定が評価されました。

海外ミステリ・ファン、とくにエラリー・クイーンが好きな方はぜひどうぞ。

このミステリーがすごい!

概要

12月になると「このミス」の発行が待ちきれなくなるファンの方も大勢いるのでは?

「このミステリーがすごい!」は、宝島社から毎年発行されているミステリ専門の年鑑です。

毎年、その年に発行された国内外のミステリの中から優れたものを選び、1位から10位までのランキング形式で紹介しています。

新人賞にあたる「このミステリーがすごい!」大賞もありますが、注目を集めるのはやはり年間ランキング。

最新のランキングに興奮するもよし、毎回裏表紙に掲載される歴代ランキングを見て思い出に浸るもよし、さまざまな楽しみ方ができるミステリファンの年末の風物詩です。

主な年間1位獲得者

一年間で話題になった作品をレビューする年間ランキングは、その年のミステリ界を映す鏡。

ある意味、個人の好き嫌いで審査する文学賞よりも客観的かもしれません。

そこでこの項では「賞もの」というテーマから少し外れてしまいますが、年間1位を獲得した作家をご紹介したいと思います。

1988年創刊当時のランキングは、国内編1位が「伝説なき地」(船戸与一)、海外編は「夢果つる街」(トレヴェニアン)でした。

その後は書名を見ただけでわかるベストセラーが続々と登場します。

国内編での1位獲得作品は「マークスの山」(高村薫)、「模倣犯」(宮部みゆき)、「半落ち」(横山秀夫)、「容疑者Xの献身」(東野圭吾)、「屍人荘の殺人」(今村昌弘)など。

海外編では「羊たちの沈黙」(トマス・ハリス)、「薔薇の名前」(ウンベルト・エーコ)、大ヒット作リンカーン・ライムのシリーズから「ウォッチメイカー」(ジェフリー・ディーヴァー)、出版時に物議をかもした「その女、アレックス」(ピエール・ルメートル)など。

国内外ともに話題作、問題作が目白押しです。

1位獲得作品ピックアップ

海外の作品からは、1994年に1位になった「ストーン・シティ」(ミッチェル・スミス)をピックアップ。

それ自体がひとつの街といわれる巨大刑務所で、収監中の主人公が殺人事件を追う物語です。

閉鎖空間という舞台設定、密室の監房内で起きた殺人と、本格好みの道具立てがそろって日本のミステリ・ファンを唸らせました。

国内1位の作品はどれをとっても外れなしの名作で迷うところですが、ここでは2004年の1位「葉桜の季節に君を想うということ」(歌野晶午)をオススメします。

すべてのページにミステリの醍醐味「だまされる楽しさ」がぎゅっと詰まったこの作品、未読の方はぜひ味わってみてください。

翌年1位の「生首にきいてみろ」(法月倫太郎)とあわせて読めば、本格ミステリの面白さをあますところなく堪能できます。

受賞作を眺めるだけでも楽しい!

国内の文学賞・ランキングの中から4つを選んでご紹介しました。

各主催団体では、受賞作品をリスト化して発表しています。

ぜひ、歴代の受賞作品を眺めてみてください。

当時のベストセラーが反映された受賞結果は眺めているだけでも楽しく、次に読む本を探すときにも重要なガイド役を果たしてくれます。

今回は国内の賞をご紹介しましたが、海外ミステリがお好きならアメリカ作家協会のエドガー賞、英国推理作家協会が選ぶCWA賞もあります。

ぜひ調べてみてください。

ミステリ文学賞の歴史は、ミステリそのものの歴史。

そこから学べることはたくさんあるはずです。

受賞の歴史を手掛かりに、新しいお気に入りを探してみませんか?

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