哲学は実は面白い!難しい哲学を楽しく読むためのトリビア集。

B!

カント、プラトン、デカルト……。

ちょっと名前を並べただけでも、「難しそう!」と引いてしまう西洋哲学の世界。

でも、読まず嫌いはもったいない!

そこでここでは、哲学者にまつわる面白エピソードをご紹介します。

哲学を知るより先に、哲学者のキャラクターを知って、まずは興味をもつところから始めてみましょう。

哲学者だって人間、しかもとびきり個性的な人間ですから、よく知ればきっと好きになれるはず。

思わず哲学を読みたくなるような、楽しい情報をお届けします!

ソクラテスの悪妻伝説

古代ギリシャの哲学者の中でもとりわけ有名なソクラテス。

その妻クサンティッペが悪妻だったというのは、哲学史の中でもよく知られた話です。

ディオゲネス・ラエルティオスの「ギリシア哲学者列伝」から、その逸話を引いてみましょう。

クサンティッペは怒りっぽく、人前でも構わずソクラテスに小言を言い、ときには暴力をふるうこともあったと伝えられています。

あるとき、クサンティッペが小言だけでは足らずソクラテスに頭から水をぶっかける事件が起きました。

ソクラテスは平然とこういったそうです。

「クサンティッペという雷がゴロゴロ言い出したら、次は雨が降るものだ」

また、こうも言っていました。

「気性の激しい女性と一緒に暮らすのは、騎手が悍馬に乗るようなものだ。

気の荒い馬を乗りこなせるようになったら、ほかの馬は簡単に乗りこなせる。

それと同じで、クサンティッペとうまく付き合えるなら、だれとでもうまくやれるのだ」

クサンティッペは、深遠な哲学を理解せず世間体ばかり気にする悪妻として描かれます。

でも、ちょっと待ってください。

家事も子育ても妻に任せっぱなし、年がら年中外を出歩いては他人をつかまえて議論をふっかける、そんな男性が人生のパートナーになったらどうでしょう?

クサンティッペが悪妻なら、生活感覚がまるでないソクラテスは、いわばダメ男。

そんな2人は、案外お似合いの夫婦だったのかもしれません。

キュニコス派の奇行

ソクラテスのもとには多くの弟子が集まりました。

もっとも有名なのはプラトンですが、そのほかにも多くの人がソクラテスの教えを受け、それぞれの学派を開いています。

古代ギリシャの哲学者たちは、ソクラテスを先頭に極端な変人ぞろい。

そんな中でも、とりわけおかしな行動を繰り返したのがキュニコス派の人々です。

キュニコス派はソクラテスの弟子アンティステネスが開いた学派で、世俗の贅沢に背を向け、貧困のうちに精神を鍛えようという実践派の思想です。

そもそもこの時代のリーダーであるソクラテスが清貧の人だったため、この時期アテナイ(現在のアテネ)では貧乏が流行しました。

本来何の不自由もないはずの貴族階級の若者まで、ソクラテスの真似をして着古した衣類を着て裸足で歩き回っていたといいます。

アンティステネスも、上着を裏返して着てわざと穴の開いたところを外に出し、貧乏アピールをしていました。

それを見たソクラテスに、「その上着にあいた穴から君の虚栄心が見えるよ」とからかわれたと伝えられています。

このアンティステネスの弟子のディオゲネスは、師匠に輪をかけて奇妙な人でした。

彼は清貧を重視するあまり定住する家を持たず、役所の前にあった大きな樽の中に住んでいました。

そして自分を鍛えるために、夏には熱くなった砂の上を転がりまわり、冬は雪の中の彫像に抱きついたりしていたそうです。

ディオゲネスは世俗の権威をまったく恐れないことでも有名でした。

それを物語るのが、大王アレクサンドロスが彼の奇行に興味をもって会いに来たときのエピソード。

「望みのものをなんでもとらせよう」と申し出たアレクサンドロスに、ディオゲネスは「そこをどいて、日差しを遮らないようにしてほしい」と答えたそうです。

さらにその弟子のクラテスは、哲学を学ぶのをやめようとしたメトロクレスを止めたエピソードで知られています。

メトロクレスが学校で学ぶのをやめると言い出したのは、授業中にうっかりおならをしてしまったためでした(食事中の方、ごめんなさい!)。

クラテスは豆をたくさん食べてメトロクレスに会いに行き、彼のしてしまったことは非難されるべきものではないと理を尽くして説明したあと、自分でも一発放屁をしたそうです。

メトロクレスは感動して、それ以来クラテスの弟子になってともに学ぶことにしました。

その後、2人はさらに近い関係を築くことになりますが、それは次項でお話ししましょう。

夫婦の伝説

前項のメトロクレスには妹がいました。

名前はヒッパルキア。

彼女は世界初といわれる女流哲学者です。

兄の師匠クラテスにどういうわけか激しい恋心を抱いてしまった彼女は、クラテス以外の男性とは結婚しないと言い出しました。

これには周囲が驚きました。

クラテスはすでに中年といっていい年齢で容姿もぱっとせず、しかもキュニコス派の清貧の思想を実践していたため財産もありません。

いっぽうヒッパルキアは才色兼備の若い女性で家柄もよく、縁談もたくさんきていたといいます。

家族はなんとか思いとどまらせようとしましたが、ヒッパルキアは縁談をすべて断り、クラテスの妻になれなければ死ぬとまで言い出します。

これには当のクラテスも驚き、ヒッパルキアのもとを訪れて自分がキュニコス派の哲学に生涯を捧げていること、不釣り合いな結婚は彼女も周りも不幸にすることを懇々と諭しましたが、ヒッパルキアはなかなか聞き入れません。

そこでクラテスはヒッパルキアを驚かせようと全裸になり、「あなたの花婿がもっている財産はこの身体だけだ。そのうえ哲学者の妻になる以上、あなたも哲学者にならなければいけない。それでも結婚したいのか、よく考えなさい」といいました。

するとヒッパルキアも躊躇なく服を脱ぎすて「わたしもあなたと同じようにします」と答えて、キュニコス派の清貧の思想を受け入れ身一つで彼に嫁ぐ覚悟を示しました。

とうとう根負けしたクラテスは彼女と結婚し、2人は史上初の哲学者夫婦となりました。

2人は同じ衣をまとい、哲学者同士の議論にも夫婦で参加し、おしどり夫婦として評判になったそうです。

おしどり夫婦といえば、20世紀のドイツの思想家ヤスパースも感動的な夫婦の逸話をもっています。

第二次世界大戦中のことです。

妻がユダヤ人だったため、ヤスパースは迫害され大学の研究職も追われました。

やがて妻を強制収容所に移送するという通知が来ましたが、ヤスパースはそれを拒み、妻と自宅に立てこもって抵抗しました。

このままでは2人とも収容所に送られるしかない、もはや自ら命を絶つしかない……という状況まで追い詰められたとき戦争が終わり、2人は助かったのです。

ヤスパースは人と人とがいつわりのない真の姿でふれあう「実存的交わり」を提唱しました。

夫婦の間には、まさに実存的交わりがあったに違いありません。

偏屈哲学者と愛犬

近代の哲学者ショーペンハウエルは、ペシミズムで知られた人です。

ペシミズムというのは、厭世主義ともいいます。

ものごとをわざわざ悲観的にみる皮肉な態度のことです。

たとえばショーペンハウエルの「幸福について」に、こんな言葉があります。

「幸福とは、せいぜい不幸ではないという程度の状態である」

こんな皮肉屋で人嫌いのショーペンハウエル、当然周りの人にも毒舌をふるって嫌われています。

ところが、この世のすべてを軽蔑しているような彼にもただひとつ愛を注ぐ対象がいました。

それがプードルのアトマ君です。

偏屈なショーペンハウエルですが、アトマ君だけは溺愛していたそうです。

暴言に近い批判で知られた気難しいショーペンハウエルが、毎日欠かさず愛犬を散歩させる姿は、なんだかユーモラス。

地元フランクフルトの市民たちも、そんな姿を微笑ましく見守っていたということです。

ちなみにアトマ(アートマン)というのは仏教の用語。

ネーミングセンスもなかなかです。

いっぽう猫派は?

哲学から少し離れますが、猫派代表として、物理学者ニュートンを挙げたいと思います。

ニュートンは物理学を通して多くの思想家とかかわりをもった人です。

万有引力をはじめ世界を変えたといわれる数多くの物理法則を発見しましたが、実は彼は猫ドアの発明者でもあります。

猫が自由に出入りできるように、ドアをくりぬいて穴をあけた最初の人というわけです。

しかも、大きい猫のために大きい穴を、小さい猫のために小さい穴をあけた後、大きい猫も小さい猫も大きい穴を通るのを見て「物理法則に反している」といったそうです。

小さい猫だって、そりゃ大きい穴のほうが通りやすいですよね!?

ニュートンは気難しく付き合いにくい人として知られていたそうですが、こんななんとも愛嬌のあるエピソードを残した優しい人でもあったのです。

ニュートンの自宅にはたくさんの犬や猫がいたそうです。

「猫派」というより「犬猫どっちも好き派」だったのかもしれません。

いちばんおいしいポジションをさりげなくとるあたり、さすが天才物理学者の面目躍如といったところでしょうか。

カントの奇行

前の項でご紹介したキュニコス派の人々は奇抜な行動で人に変人と思われましたが、それとは逆に極端に常識的すぎて変人扱いされてしまったのがイマヌエル・カントです。

いつも同じ時間に散歩に行くので、町の人たちがカントを見て自分の時計を合わせたという話は有名です。

カントはとにかく決まった手続きが大好き。

食事のメニューも決まっていて、違うものを出されるとキレたといいます。

また雷には電磁波が含まれていると信じていて、雷雨になると窓から頭を突き出して何かの電波を受信しようとしていたという珍エピソードも伝えられています。

おそらく、カントは自分で面白いことをいおうとしていないのに面白いことをいってしまうタイプだったのでしょう。

中島義道の「カントの人間学」にはカントとその周辺の人間模様が面白おかしく描かれています。

真面目すぎる哲学教授の面白エピソードが知りたい方に、ぜひオススメです。

まとめ

哲学者トリビアは、真面目な哲学へのとっかかりにも、会話の中でちょっと知識(無駄知識ですが)を披露するのにも使えます。

ここでご紹介できたのは、哲学者面白話のほんの一部です。

なにしろ変わり者ぞろいの哲学界のこと、面白いエピソードはまだまだたくさんあります。

こんなところを入り口に、哲学の世界へ踏み出してみませんか?

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