弓道では弓を引くのに力が必要なイメージがありますよね。
しかし、「弓は骨で引く」という言葉があり、実際には筋力よりも引き方の方が重要といわれています。
そして、筋力トレーニングが必要かどうかは、指導者によって意見がわかれるポイントでもあります。
今回は、弓を引く際に使う筋肉とトレーニング方法について下記の順で紹介します。
- 弓を引く時に使う筋肉~上腕三頭筋~
- 鍛える方法
- 学校弓道での筋トレについて
- まとめ
それでは、さっそく紹介していきましょう。
弓を引く重要な筋肉~上腕三頭筋~
さて、弓を引くとき、どの筋肉を使っているのでしょうか?
実は、弓道における筋肉の使い方について学術的にも筋電図を用いた研究がされています。(佐藤.2010、谷口,藤原.1999、など)
弓を引き分ける際に使われているのは、上腕三頭筋、三角筋、棘下筋など、肩周辺の筋肉のようです。
更に、これらの研究で共通してみられる結果があります。
会の際、上段者が上腕三頭筋を使っているのに対し、初級者は上腕二頭筋と上腕三頭筋を使っているという点です。
上段者は、効率良く上腕三頭筋を使っており、一定の力で引き分け、会をとっています。
一方、初級者は上腕三頭筋以外の腕や手、特に力こぶのできる上腕二頭筋に余計な力が入ってしまう傾向があるらしく、弓を引く力も一定ではありません。
ということは、上腕三頭筋を活用して効率良く弓を引ければ、上達につながるのですね。これは、うまく使えるようになりたいものです。
では、上腕三頭筋とは一体どのような筋肉なのでしょうか?
上腕三頭筋は二の腕と呼ばれるあたりの筋肉です。力こぶができる筋肉(上腕二頭筋)の反対側にあります。
上腕三頭筋の役割は、まとめると主に3つあげられます。
- 肘関節の伸展(肘から先を曲げる働き)
- 肩関節の内転(腕を体の中心に近づける働き)
- 肩関節の伸展(腕を体よりも後ろに下げる働き)
打起しから肘を曲げる肘関節の動作、会に入る上半身の動きにあたる肩関節の動きに大きく関わっているのです。
それでは次の項目で、使い方と鍛え方の一例について紹介しましょう。
上腕三頭筋の使い方と鍛える方法
上腕三頭筋は、ふだん生活の中ではめったに使わない筋肉です。
生活の中で肘を肩の高さまで上げて一定の時間停止ししたり、
肩甲骨をくっつけるかのように肩を回したりする機会は普段なかなかないですよね。
そして、上腕二頭筋は腕に力を入れると力こぶができるので目に見えやすいですが、上腕三頭筋の場合は固くなるくらいで目視でも確認しづらいです。なので、意識して力を入れにくいんですよね。
では、どのように上腕三頭筋を使えばよいのでしょうか。
所説ありますが、筆者は、弓を引く動作の中で上腕三頭筋を意識することは不要と考えています。
というのは、上腕三頭筋の働き自体が肘から先を曲げたり、肩と肘を一直線に伸ばしたり、それらの姿勢を保持したりする筋力ですので、意識して力を使うことが難しいからです。
筋力を意識して使うというよりは、骨で引くと言われるように、筋力は自然体に任せて意識せず、手や腕の位置、射形を整えることが大切です。
矢数をかけて練習することで、自然と必要な筋肉は付いてきます。特別な筋力トレーニングより素引き、ゴム弓、適度に矢数をかけて練習することが、弓道に必要な筋力をつける近道となるわけです。
ですが、
- 今より強い弓を引きたい
- 持久力を上げたい
- とにかく筋トレをしたい
という方のために、上腕三頭筋を鍛える方法を紹介しましょう。
まず、大前提として知っておいていただきたいことがあります。筋肉を作る仕組みです。
筋力を一定の強度で使うと筋組織が破壊されます。その壊れた筋組織を栄養と休息をとって修復することにより、以前より強度の高い筋肉になります。
筋肉トレーニングは、この筋肉の性質を利用して筋力を増やすトレーニングです。
ですので、トレーニングするだけではなく、筋肉に栄養と休息を与えて育てるものと考えて下さいね。
ゴム弓で鍛える。
一番弓道で使う筋肉を効率よく鍛えられるのは、ゴム弓です。打ち起こしてから会までガッツリ弓道で使う上腕三頭筋を鍛えることができます。
ゴム弓がなければ、太めのゴムチューブを輪にして代用することも可能です。
ポイントは、正しい射形で数をこなすこと、ゆっくりと引き分け・会をとり、姿勢を保持し筋力に負担を与えることです。
特にゆっくりとした動作や一定の状態を保ち続ける動作は、勢いをつけて素早く動かすより、筋肉に負荷を与えるので効果的です。
注意点すべきは、変なクセがつかないようにすることです。
ゴム弓練習の長所であり短所でもあるのですが、繰り返し行うことで自然と体が形を覚えてしまいます。特にゴムを手首に力を入れて引かないように注意が必要です。
ゴム弓の強度が弱いと思ったら、持ち手にゴムを2重に巻き付けたり、ゴムチューブの輪を小さくすることで強度を増すことができます。
終わった後には、休息と栄養を与えてくださいね。
腕立て伏せで鍛える
筋肉トレーニングでおなじみの腕立て伏せで鍛える方法があります。
ポイントは、手と手の間の間隔の取り方です。腕の開く間隔で鍛えられる筋肉が変わります。
弓道で使う筋肉だけをピンポイントで鍛えられるわけではないですが、基礎的な筋力や持久力のアップにつながります。
また、弓道では瞬間的な力はそれほど重要でないので瞬発力を鍛えるため数をこなすよりも、ゆっくりと動作を行う方が筋力を鍛えられます。
1)肩幅と同じくらい開く
肩幅と同じくらい両手の間隔をとったノーマルな腕立て伏せです。
上腕二頭筋と上腕三頭筋が鍛えられます。
初めて腕立て伏せをする場合、つま先立ちではきついと思うので、
膝をついて腕立て伏せをすると良いでしょう。
2)肩幅より狭くする
腕(上腕二頭筋、上腕三頭筋)と肩(三角筋等)の筋肉を重点的に鍛える腕立て伏せです。
いきなり両手の間隔をなくし親指の先同士が付くようにするのはキツイので、
肩幅くらいの間隔から初めて、徐々に両手の幅を狭めると良いでしょう。
3)肩幅より広くする
腕の上腕三頭筋と胸の大胸筋を鍛えられる腕立て伏せです。
こちらも肩幅くらいの間隔からはじめて、だんだんと開いていくと良いでしょう。
この3種類の筋肉トレーニングを組み合わせて行うとより効果的です。
但し、筋肉がつくと腕や肩のあたりの筋肉は太くなりますので、ご承知おきくださいね。
学校弓道での筋トレについて
先程、弓道で弓を引くために特に筋肉トレーニングは必要ないとの考えをご紹介しました。
では、学校弓道での筋肉トレーニングは無意味なのかというと、そうでもありません。
筋肉を増やすほかに筋肉トレーニングをすることで、基礎体力をつけ、力の使い方を覚えられます。
力の使い方を覚えるとは、どういうことかというと…
力を生み出し一定のところにためるという感覚や、タイミング良く力を発揮する感覚を鍛えられるからです。
説明が難しいのですが、ボールがラケットに当たる瞬間に合わせて力をいれた方が勢い良く速くとんでいくし、ピアノや太鼓などの楽器でも力の乗せ方で音の質に違いが出ますよね。
実際、スポーツや楽器など、何かしら力をコントロールする経験を持つ人の方が、弓道も上達が早い傾向があると感じます。
力の流れは目に見えないので説得力にかけますが、力のコントロールはある程度どの種目にも共通するところがあるようです。
学校弓道での部活での筋トレってなんだか面倒ですが、良いタイミングを掴んで力を使えるように訓練しておくのは悪くないのではないでしょうか。
まとめ
さて、弓道で使う筋肉やそれを鍛える方法を紹介しましたが、いかがでしたか?
弓道の筋力の使用についてまとめると…
- 上級者は上腕三頭筋をうまく使っている
- 意識して使うのは難しいので、矢数をかけて自然に筋力を使い育てるのがよい
- 筋肉トレーニングで鍛えることも可能
射法八節は、筋力をいかにセーブして効率よく弓を引くかを、考えつくされて定められたように感じます。これを考え出した先人の知恵って素晴らしいですね。
ちなみに、腕立て伏せは両手間の幅を変えると、重さを感じるところが変わって面白いです。
弓を引くスキルとしては必須ではないですが、興味がある方はぜひ試してみてください。