演繹法と帰納法とは?意味とその違いを解説。

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哲学、とくに論理学を学ぶ方にとって、演繹法と帰納法という二大推論方法は必ずぶつかる壁。

近世以降の哲学では頻繁に出てくる言葉ですが、日常的に使う用語ではないので戸惑いますよね。

哲学の歴史を学ぶ上では避けて通れない道なので、しっかり意味を把握しておきましょう。

ちゃんと覚えれば、近代哲学がとても理解しやすくなりますよ。

演繹法

演繹法とは、一般的普遍的な法則から個別の法則を引き出す手法のことをいいます。

この方法は非常に論理的で、昔からとられてきた伝統的な手法でもあります。

この方法で導き出された結論は必ず正しくなりますが、机上の空論に陥りやすいという問題もあります。

特徴

それでは、具体的に演繹法の内容をみていきましょう。

演繹法のルールは、大きなものから小さなものを引き出すということです。

前提は一般的な法則です。

たとえば、一般的普遍的な法則として、「海水には塩分が含まれている」という前提があったとしましょう。

ここから「太平洋の水は塩辛い」ということができます。

同じように大西洋の水が塩辛いという結論も、インド洋の水が塩辛いという結論も引き出せます。

ちなみに、ここでは論理性のみを問題にしているので、「世界の海はすべてつながっているから、どの海水も塩辛い」という理由は考えません。

演繹法では前提が正しければ結論も必ず正しくなります。

ただし、前提が間違っていれば、当然結論も間違います。

そういった点から、演繹法はそれ自体がひとつの形式であるといえます。

論理学上では、間違った前提から引き出された間違った結論も、文法上正しければ「真」であるとされることがあります。

演繹法は、論理学的な方法であるだけに、現実から乖離した不可解な結論をも許してしまう形式主義的な方法でもあるのです。

論理学特有の「形式主義」とは、現実とまったくリンクしていなくても(=リアリティがなくても)論理上の計算間違いがなければ正しいとして成立してしまう、ということです。

たとえばイギリスの思想家バートランド・ラッセルが考えた「現在のフランス国王はハゲである」というパラドックスもその1つです。

普通にみればこの文は間違いです。

なにしろ、現在のフランスには国王はいないのですから!

ところが論理的には、この文は真です。

なぜなら、論理的に計算間違いがないからです。

こういった乖離をどう解決するかも、演繹法の課題の1つです。

歴史

演繹法の中でも、もっとも有名なのがアリストテレスの発案した三段論法です。

これは「AはBである(A=B)」を前提にして「BがCであるならば(B=C)」という条件下で「AはCである(A=C)」という結論を求めるという方法です。

1つの例として「人間は死すべきものである」という命題が挙げられます。

「人間が死ぬものであり」「ある人(彼)が人間であるなら」「彼は死すべきものである」という結論になります。

人間全体についての大きな法則から「彼」についての個別の法則を引き出す方法は、まさに演繹法です。

また、哲学史でいうと演繹法は大陸合理論と深い関係にあります。

後述する帰納法がイギリス経験論に深くかかわっていたように、演繹法は大陸合理論の思想を理論面から支えています。

大陸合理論は、形而上学をおもに扱ういわば「哲学らしい哲学」。

つまり演繹法は哲学らしい哲学のためのツールといえるのです。

長所と短所

これまでに述べてきたことの要点をまとめてみましょう。

演繹法の長所はなんといっても論理学的に明晰であるということです。

前提さえ正しければ、そこから出された結論には疑問が入る余地はありません。

論証に用いるうえでは、かなり強力なツールです。

とはいえ演繹法には短所もあります。

ここでちょっと前項を思い出してください。

海の水はすべて塩辛いという結論を出すにあたり、まず「海水には塩分が含まれている」という前提を設定しました。

そして「海は全部つながっているから」という合理的な理由を排除しました。

どちらも合理的な理由であっても、演繹法は異なる複数の前提はとりません。

演繹法が導き出すのはただひとつの絶対的な真実だけです。

つまり多様性がないのです。

融通が利かず、複雑多様なシーンで使用するには向きません。

そもそも演繹法において、前提が正しいことをどう証明するのでしょうか。

前提が正しいことを論証するためには、その前提を導き出すための前提が必要になり、さらにその前提を引き出すためにまた別の前提が……と、どこまでも戻ってしまいます。

一体いちばん最初の前提は、どうやって正しいとわかったのでしょうか。

そのうちにループして、「卵とニワトリどちらが先か」ならぬ「前提と結論とどちらが先か」のような話になってしまいかねません。

さらに、演繹法にはもうひとつ重要な欠点があるのですが、それは後に述べたいと思います。

帰納法

帰納法は、演繹法とは対照的に個々の事例から普遍的な法則を引き出そうとする方法です。

この方法は、わたしたちにとっても身近な考え方でわかりやすいものです。

より科学的な方法といえるでしょう。ただし、演繹よりも論理性な信頼度は低くなります。

特徴

帰納法はサンプルを比較し、そこに共通する一定の特徴を取り出して一般的な法則とします。

実験によって得られたデータから定理を作り出す物理学や自然科学を考えるとわかりやすいでしょう。

たとえば演繹法でみた例では、「海水には塩分が含まれている」という前提から「したがって、どんな海(個別の海)も塩辛い」という法則を引き出しました。

同じテーマを帰納法で解こうとするなら、まず最寄りの海の水が塩辛いことを確かめます。

それから、ほかの海の水も塩辛いことを確かめます。

すべての海の水が塩辛いことがわかれば、「海の水には塩分が含まれている」という一般的な法則を定立できます。

ただし、この方法では必ず正しい結論が導かれるわけではありません。

たとえば、海のような限られたものではなく、もっと多様でサンプルがとりにくいものだとどうなるでしょうか。

違う例で考えてみましょう。

「カラスは黒い」という命題があったとします。

この命題を証明するためには、世界中のすべてのカラスを調べなくてはなりません。

それは無理な話です。

目に見えるすべてのカラスを「黒い」と確認したとしても、もしかしたら、誰も知らないところで白いカラスが生まれているかもしれません。

帰納法で出される結論は絶対的な真理ではなく「たぶん正しいといえる」ものなのです。

歴史

帰納法といえば、真っ先に思い浮かぶのがイギリスの哲学者フランシス・ベーコンです。

科学にも興味をもっていたベーコンは、自説を肯定するのにより科学的な帰納法を使いました。

ベーコンから始まるイギリス経験論の思想家たちは、あるいは方法論として、あるいは考え方の基盤として、いずれも帰納法に重きをおいています。

前述した大陸合理論では、理性や道徳といった人がもつ能力を生まれつき与えられたものと考えますが、経験論は人は生まれつきもっているものなど何もなく、すべての能力は経験によって得られるという立場をとります。

これはまさに帰納法の考え方です。

大陸合理論は演繹法で「生まれつき存在する道徳や正義という普遍的法則」によって個々の人間の行動が決まると考えます。

対して、イギリス経験論は「個々人の経験」から人類全体に共通するモラルや知性といった普遍的性質が生まれてくると考えます。

長所と短所

繰り返し述べてきたとおり、帰納法の弱点はまず確実性が低いということです。

正しさを論証するためのツールとしては、これは非常につらい欠点です。

データの読み間違い、まとめ間違い、推論の間違いと、帰納法における作業には間違える可能性が高いポイントがたくさんあります。

とくに帰納法が多用される現場、科学の世界では計算間違いや思い込みは日常茶飯事。

これをいかに克服するかが帰納法の課題です。

他方、帰納法には正しい前提がなくても推論が可能であるという大きな強みがあります。

これについては次項でくわしく述べていきます。

どちらが優れているの?

論理的な正確性では、演繹法のほうが勝っています。

個を見比べて全体像を決定する帰納法では、採集するサンプルが少なかったり、まとめるときに解釈を間違えたりと正しい結論を出すことが妨げられがちです。

演繹法なら、前提さえ間違っていなければ必ず正解にたどり着けます。

確実性でいえば、演繹法が望ましいといえます。

それでは推論はすべて演繹法で行うのがよいのでしょうか?

ところが、違うのです。

演繹法には致命的な欠点があります。

それは、正しいとわかっている前提からしか正しい結論を導き出せないということ。

かなり乱暴な言い方をしてしまうと、演繹法とはわかりきったことからわかりきった結論をもってくることしかできない方法なのです。

これは結局、事実を言い方を変えて再確認しているだけです。

この堂々巡りを突破するために、必要になってくるのが帰納法です。

帰納法は絶対確実とはいえない方法ですが、演繹法と違ってまったく新しい定理を生み出すことが可能です。

決まった前提から決まった結論を出す演繹法では、新しいものは生まれません。

決まった枠からはみ出すためには帰納法が必要なのです。

とはいえ帰納法で引き出した結論はまだ不確か。

それを別の角度から演繹法で補足して、確実なものにするのがベストな方法です。

演繹法と帰納法とは、互いの長所と短所を活かして使うことで最大限の効果を発揮するといえます。

まとめ

2つの代表的な推論の方法について解説してきました。

思想史上では、このほかにもソクラテスの問答法やヘーゲルの弁証法といった興味深い論理ツールがたくさん出てきます。

そういった多様な思想を理解するためにも、基本となる演繹法と帰納法はしっかり理解しておきましょう。

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