哲学書をすすめられたら、皆さんはどう思いますか?
「難しいんじゃない?」というのが普通の反応ではないでしょうか。
哲学といえば「難しい」がお約束。
でも、そんなことはありません。
難しい話をやさしく噛み砕いて解説してくれる、とても親しみやすい哲学書だってあるんです。
読みにくい哲学をしっかりやさしく伝えてくれる名著から、ひたすら萌えを追及する珍書まで、スイスイ読めちゃう楽しい哲学書をご紹介します。
はじめての哲学
最初にご紹介するのは、石井郁男著・ヨシタケシンスケ挿画の「はじめての哲学」です。
古代、近世、近代、現代の4つの時代にわけて14人の哲学者の思想を紹介する本書は、名前のとおり、はじめて哲学を読む若い世代のための案内書。
各時代を代表する哲学者たちの思想を、楽しいエピソードとともにわかりやすく紹介してくれます。
後書きでも語られている著者のこだわりは、「哲学ではなく哲学者に興味をもってもらう」こと。
思想の前に、まずはそれを唱えた人の人生を知ることで、より興味をもって哲学を学ぶことができる、というわけです。
いわば「顔が見える哲学書」。
どんな人がどんなことを考えたのか、またどうしてそう考えたのか、読んで納得できる仕組みになっています。
基礎からちゃんととらえることができるので、はじめて読むには最適の一冊です。
しかもヨシタケシンスケの描く似顔絵が、本人そっくり!
シンプルなのに特徴をとらえた愉快な挿絵に思わず笑ってしまいます。
りんごかもしれない
哲学は難しいものではない、それを教えてくれるのがこの一冊です。
絵本「りんごかもしれない」は、人気絵本作家ヨシタケシンスケが描いたなんとも不思議な物語です。
物語といっても、はっきりしたストーリーや起承転結があるわけではありません。
内容は、ある日うちの台所でみつけたりんごについて、ひたすらいろいろな想像をするだけ。
ところがこの想像が、次から次へと広がって……?
哲学の始まりは「知りたい」という欲求でした。
そのために「もしかしてこうかも?」「いや、もしかしてこれもあるかもしれない」と、あれこれ考えることこそ、哲学の本質です。
見慣れたりんごも「ただのりんご」と思ったらそこで終わり。
「もしかしてただのりんごじゃないかも……」と思ったそのとき、ありふれたりんごも世界を知るための入り口になるのです。
ひとつのりんごから始まる無限の可能性が、「考える」ということの意味を教えてくれる名著です。
哲子の部屋
Eテレの深夜枠で放送されていた名番組「哲子の部屋」を書籍化したのが本書です。
「哲子の部屋」は、哲学者の國分功一郎をホスト役に、テーマに沿ってただひたすら話し合うという異例の番組。
毎回さまざまなテーマが出され、哲学者の言葉とともに音楽や映画をも手掛かりにして、その本質に迫っていきます。
1巻のテーマは「考えるって何?」。
ドゥルーズの「哲学とはなにか」からの引用をまじえつつ、「考えること」を考えていきます。
本書における大切なポイントは、自分で考えるということ。
手がかりとして哲学者の言葉があるものの、テーマを本当に理解するのはわたしたちひとりひとりの仕事であるというスタンスに立って、丁寧に結論を引き出していきます。
続巻の「人はなぜ学ばないといけないの?」「本当の自分って何?」もあわせて読むと、さらに理解が深まります。
哲学男子
ソクラテス、アウグスティヌス、デカルト、ニーチェ……。
おなじみのあの哲学者たちが、見目麗しいイケメンになって登場!?
本書は美麗イラストで哲学者たちを紹介する、ちょっとかわった哲学書です。
現代衣装の可愛い&カッコいい哲学者たちのイラストに、乙女心をくすぐる秘密のエピソードと4コマ漫画も加わって萌えツボ満載!
と、ここまでご紹介したところで、もしかしたら、「ふざけているのか!」と怒る方も出てくるかもしれませんね。
でも大丈夫、本書はたんなるお遊びではありません。
プロフィールとあわせて、思想もわかりやすく解説してあります。
初学者にオススメの解説書についてもコラムで紹介されているので、好きな人の思想をさらにくわしく知りたくなった恋する乙女も安心です。
女子ならこんなところから哲学の世界に踏み込むのもよいでしょう。
残念ながら男子向けの類書は現在ありませんが、そのうちに思想を擬人化した書籍が出版されるのを期待して待ちましょう。
たとえば「われ思う、ゆえにわれあり」はお姉さまキャラ、「構造主義」はメガネっ子……なんて勝手に想像するのも楽しいものです。
ソクラテスと朝食を
サブタイトルは「日常生活を哲学する」。
タイトルの通り、わたしたちの誰もが毎日繰り返している行動を哲学的にみていこうというユニークな哲学書です。
著者によれば、哲学は特別な機会や場所を必要とするものではありません。
日常生活の中で、わたしたちはいつも哲学的なテーマと接しているのです。
たとえば、わたしたちは朝起きたときから自分の存在という哲学的なテーマに向かい合っています。
デカルトの言葉でいえば、わたしたちは朝目覚めたときから「我ある」を意識しているわけです。
それを著者は、「朝、目覚めることはきわめて哲学的な行為である」という言葉でユーモラスに表現しています。
通勤、ショッピング、スポーツジム、テレビ鑑賞、お風呂まで、著者にかかるとすべてが哲学について考えるチャンス。
まさに起きてから寝るまで哲学できます。
考え方を変えれば普通の一日も知的刺激に満ちたものに変わる、そんなことを教えてくれるユニークな名著です。
プチ哲学・カント教授の多忙な一日
ここで、ちょっと変わった哲学書をご紹介しましょう。
哲学書といっても、いわゆる解説書のたぐいではありません。
本書は、ストーリー仕立てでカントの生涯と思想を表現するというかなり意外な一冊です。
脱力系の可愛いイラストと児童書のようなやさしい語り口で進むストーリーは、ファンタジックで魅力的。
ただ、理解するためには哲学史的な知識とカントの批判哲学の基礎知識が必要になるかもしれません。
はじめてカントの哲学にふれる方は、雰囲気だけを楽しむにとどめておくのが無難です。
虚実まじえた単なるお話としても、十分楽しめる内容です。
そしてカントの哲学を読み、そのプロフィールを知った後なら、「ああ、こういうことだったのか」と納得できるに違いありません。
エスプリの国・フランス生まれのプチ哲学シリーズには、ほかにもソクラテス、マルクス、アインシュタインの物語があります。
フワっとした独特の味わいを楽しみたい方は、ぜひどうぞ。
哲学用語図鑑
哲学を学ぶ方に、ぜひ手元に置いていただきたいのがこの一冊。
古代から現代まで、時代別に思想家を整理し、その思想をイラストでわかりやすく解説しています。
項目別に、平易な言葉を使用してポイントをしぼった解説が加えられているので、はじめて学ぶ方にも安心です。
でも、本書の魅力はそれだけではありません。
シンプルで可愛いイラストは、見ているだけでも楽しく、読み物としても十分な娯楽性を備えています。
各時代の哲学者の生没年をまとめた年表もかなり便利。
初めて学習する方にも、哲学を学ぶ学生さんがレポートを書くときの資料としても、とにかく使いでがあるオススメの参考書です。
100の思考実験
思考実験というのは、実際に実験できないような倫理的な問題を空想上の設定で考えることです。
たとえば、「まだ犯罪を犯していないが、将来犯罪を犯すことがほぼ確実な者を逮捕するのは正しいことか?」といった問題がこれにあたります。
ところで、この問題の内容に見覚えがある方も多いのでは?
これはフィリップ・K・ディックの近未来小説「マイノリティ・リポート」のストーリーです。
本書は、このような小説や映画に材をとったものから正統派の論理ゲームまで、さまざまな思考実験を集めた労作です。
その数、なんと100!
挑戦し甲斐は十分すぎるほどあります。
論理ゲームという形で示された問題は、気軽に読めるのに考えさせられるものばかり。
中には、デカルトやヒュームといった著名な哲学者の思想を、思考実験の形に書き直して検討してみるものもあり、既存の哲学を違う角度から見直す意味でも有益です。
まとめ
どんな学問も、最初に読む一冊が大切といいます。
とくに、哲学というちょっぴり入りにくいジャンルならなおさら入り口は大事。
いきなり難しい哲学書から挑戦して、挫折してしまったという方も少なくないことでしょう。
ここでご紹介したやさしく楽しい本なら、興味もきっと続くはずです。
ぜひ、読んでみてください。