薬学部を選ぶ大切なポイントとは?将来を見据えて後悔しない選択の仕方。

2018年データによれば、全国に薬局は約5万8,000店。コンビニエンスストアが約5万5,000店ですので、コンビニ並みかそれ以上の薬局が日本にはあります。

医薬分業の政策に沿って、厚生労働省が推進する院外処方によって薬局の数が増えています。

必然的に、薬剤師の数も必要とされ、現在では薬局就職であれば、それほど苦労せずに内定が取れます。

薬剤師になるためにはどうすればいいのか?

薬剤師になるためには、6年制の薬学部を卒業し、薬剤師の国家試験に合格しなければなりません。

では、どういう薬学部を選ぶのがよいか?についてここでは解説します。

薬剤師養成が6年制に移行した際に、28校もの新設薬学部、または薬科大学が設立されました。

現在、何割かの大学で定員割れを起こしている状況です。ですので、どこかの薬学部には入れる状況になっています。

しかし、医師とは違って、薬剤師になるのであれば自分の将来を考えて大学選びをしなければなりません。

薬学部ってどんなところ?

薬学部は、薬剤師養成機関としての性質はあるのですが、大学によって性質が異なります。

薬剤師養成を主として運営している薬学部もありますし、研究者・技術者の育成を主にしている学部もあります。

この性質の違いは、国公立と私立ではっきり分かれています。

国公立では、薬学部を持つ大学18校のうち、2018年に新設された山陽小野田市立山口東京理科大学以外は、4年制と6年制が併設されています。

一方で、私立大学は、半数以上が6年制のみで、4年制を持つ大学はごく僅かです。

この6年制と4年制、どう違うのでしょうか?

6年制薬学部

6年制薬学部は薬剤師養成が主です。学年が上がると、実務実習で薬局、病院の現場で実習します。

講義内容は国家試験対策が中心です。卒業研究もそれほどやらない大学が多く、とにかく国家試験合格に向けて勉強です。

大学院進学の場合は、6年制学部からですので、4年間の博士課程に進学する学生が比較的多く見られます。

しかし、6年間それほど研究するための勉強をしていないので、博士号を取るのは容易ではありません。

4年制薬学部

4年制薬学部の場合、学部教育は国家試験対策ではなく、学問としての薬学を学ぶことに重点が置かれます。

卒業研究もきっちりやり、多くの学生は大学院に進学します。

大学院は、2年間の修士課程があり、その後には3年間の博士課程があります。中には、4年間の医学研究科に進学し、医学博士を目指すケースもあります。

このコースの多くの学生は、企業の研究者、大学・研究所の研究者を目指す人が多くみられます。

ただし、どの4年制の大学でもいいというわけではなく、ある程度のレベル、または知名度を持つ大学であれば、という条件がつきます。

目的に沿った薬学部選び

薬学部進学の目的は、薬剤師になりたい、創薬に興味がある、などなど多様です。

実質上、薬学部には性質の異なる4年制と6年制という二つのコースがありますので、受験する人は目的に沿った大学を受験しなければなりません。

薬剤師になりたい

薬剤師になりたい人であれば、6年制薬学部に進学しなければ薬剤師国家試験を受けることができません。

4年制と6年制が併設されている薬学部は、入学時にどちらか選んで受験する大学と、進級時にどちらか選ぶ大学、2パターンあります。

進級時にどちらか選ぶ、という大学であると、希望を取り、成績順で決める大学がかなりあります。

つまり、大学での成績が振るわないと、自分の希望したコースに進めなくなります。

確実に薬剤師になりたい人は、必ず6年制に入る、できれば入学時から4年制と6年制に分けられる大学を狙うのがよいと思います。

4年制に進んでも、大学院進学で薬剤師国家試験受験資格が得られる、という情報もありますが、以下のような条件を満たした人のみ受験資格が与えられます。

1. 4年制薬学部への入学が、平成18年4月1日から平成30年3月31日の間であること。

2. 4年制薬学課程を飛び級無しで卒業していること。

3. 薬学の修士課程か博士課程を修了していること(2年以上の在学期間が必要)。

4. 6年制薬学課程の卒業に必要な単位を12年以内に全て習得すること。

5. 実務実習に専念すること(大学院に在学したままで実務実習は履修できません)

1番目の条件の時点で、これから薬学部に入る人は、4年制では国家試験受験資格はもらえないということになりますので、薬剤師になるには絶対に6年制に進まなければなりません。

企業・大学などに就職したい

まずは、自分の目指す就職先が、薬剤師免許が必要かどうか、また薬剤師免許を持っていると昇進に有利かどうかを調べましょう。

薬剤師免許を持っていると「薬剤師手当」として給与にいくらか加算される場合があります。

となりますと、6年制の方が有利ではないかとなるのですが、一概にそうとは言えません。

それは、6年制と4年制の教育内容によるものです。

6年制が国試対策に重点を置くのに対して、4年制では学問としての薬学を学びます。

そして卒業研究、大学院での研究を行いますので、この研究経験を期待する就職先であれば、薬剤師免許がなくても十分有利です。

それは、研究や実験の、計画・実行・解析・考察のサイクルを訓練された学生の方が企業などにとっては欲しい人材だからです。

6年制では国試対策ばかりでこのサイクルの訓練はそれほど行いません。

ですので、薬剤師になることは特に考えていない、薬学を学んだ後は企業などで、と考えている人は4年制を選んだ方がよいでしょう。

しかし、6年制であっても、サイクルを訓練してくれる大学もあります。

それは、入学偏差値の高い大学です。

なぜかといいますと、入学偏差値の低い大学では、学力レベルが低い学生が多いので、国家試験対策を徹底的にやらないと国試合格率が低くなります。

そのため、偏差値の低い大学では国試合格率を上げるための教育システムになっており、社会に出てから必要なもっと高いレベルの教育についてはやや手薄になっています。

薬学部の落とし穴

薬学部は、他学部と比べると落とし穴が多い学部です。

将来の希望をよく考えて進学すれば、他学部と比べると就職などは上手くいく学部ですが、間違えるとかなりの苦労をします。

少しでも偏差値の高い大学に行けばいいのか?

これは、Yesとは限りません。

例えば、薬剤師志望、地元で薬剤師として働きたいという人がいたとします。その人の地元が東北だとしましょう。

自分の学力を考えると、東北の薬学部よりも偏差値がやや高い関西の薬学部に行けるのでそこを選んだ場合、不利なことが起きます。

それは実務実習です。

実務実習は、東北の大学であれば、東北地区の薬局、病院で行われます。薬剤師養成中心の中堅薬学部の学生は地元出身率が高いので、ほぼ地元で行われるということになります。

各薬局は、この実務実習で優秀な学生が配属されると、就職の声をかける場合があります。

つまり、実務実習が実質上インターンシップのようになっているのです。

もし、関西の薬学部にいて東北地区に就職を希望した場合、ここで差がついてしまう可能性があります。

大学によっては、出身地の近くで実習できるように取り計らう大学もありますが、調整上やむなく地元から遠く離れたところで、というケースもあります。

少しの偏差値の差であれば、薬剤師として働きたい地域の薬学部に進学するのが就職に有利です。

ただし、京都大学の薬学部に進学できる学力を持っているのに、就職を考えてその地域の偏差値40台レベルの薬学部に進む、ということはやめておきましょう。

あくまで、偏差値的に5程度の差であれば、偏差値の高い低いではなく、就職を優先すべきということです。

国家試験の合格率が高い大学

毎年、厚生労働省から医師、歯科医師、薬剤師などの医療職資格国家試験の合格率が大学別に発表されます。

この合格率ですが、高い低いで毎年大学関係者は一喜一憂します。

しかし、この合格率にはちょっとしたカラクリがあります。

合格者÷受験者で計算される合格率は、実際に受験した人に対する合格率です。

国家試験への出願は、卒業者、または卒業見込み者です。この卒業見込み者がポイントです。

6年生に進級し、卒業見込み、卒業確定となれば国家試験を受験できるのですが、出願は必ずしも卒業が確定しなくてもできるのです。

出願は秋あたりに行われます。この時点で100人が出願したA大学の薬学部があるとします。

薬学部、特に私立の多くは、卒業するための試験があります。

冬あたりに行われる卒業試験で、A大学では20人が不合格となりました。

そうなると、A大学で受験できる6年生は80人になります。

ここで80人全員が合格すると、合格率が100%となります。

実は、多くの大学ではこうやって合格率を調節しているのです。

出願させた後の卒業試験(難易度、問題の傾向は国家試験と同レベル)によって、国家試験に受からなそうな学生を留年させるという手段です。

何人卒業できなかったか?は、厚労省発表のデータからわかります。出願者数と受験者数の差が、留年した6年生の数になります。

つまり、A大学は、受験者数に対する合格率は100%だが、6年生で見ると、合格率は80%ということになります。

それでは、合格者÷出願者で計算される合格率を信用すればいいのか?と言われると、実はそれも微妙です。

厚労省がこういう数値を発表するようになって、大学によっては出願をさせない、つまり出願資格が生じる6年生への進級を厳しくするという手段をとっているところもあるのです。

こうなりますと、入学時の定員、または入学者数から算出しないと真の合格率はわかりません。

合格率の高い大学は優秀である、とも言い切れません。何人入学して、何人が最終的に合格したのか?を見ないとその大学の力がわからなくなっています。

国家試験の合格率は大事ですが、あまり信用しすぎるのも危険ということです。

薬学部は大学間の差が大きい

医学部、歯学部と比べると、薬学部は大学間の差が大きい学部です。

大学間の差、とは、入学に必要な学力、教育内容の2つの点です。

理学部だろうが法学部だろうが上から下まであるのは当然なのですが、薬学部の場合、ある特殊性があります。

それは、東大薬学部であろうが、底辺と呼ばれる大学の薬学部であろうが、薬剤師国家試験という同じ問題を解く、ということです。

高校までの学力が高い学生の集まっている大学であれば、国試対策はそこそこにして、将来的に必要な能力を得るための教育ができます。

しかし、底辺の大学であると、国家試験合格率を少しでも上げるための教育をしなければなりません。

そうなると、国試合格が見え始めた学生に対して、それ以上の教育を行なうことができません。

これは、大学が最近厳しい状況に置かれているからです。

経営的に経費を節減しなければならず、人件費は真っ先にやり玉に挙げられます。私立大学の多くが、ギリギリの教員数で運営をしているのが最近の状況です。

そんな状態で、国家試験合格より先の教育に割く人的リソースがどの大学も不足しているのです。

大学教員の多くには、残業代も休日出勤手当もありません。そのため、大学は国家試験合格率引き上げのために、多くの業務を教員に強いています。

大学教員の多くは、裁量労働制なので、どれだけ業務をさせたとしても大きな問題になりませんし、身体を壊したとしても「自己責任」で逃げ切ることができる現状です。

底辺と呼ばれる薬学の薬学部はこの傾向が顕著です。こういったことを考えながら志望校を決定する必要があります。

進学先決定するときに

まずは、薬剤師になりたいという希望がどのくらい強いのかを考えましょう。

非常に強いのであれば、最初から6年制コースに入学のできる大学を選びましょう。

企業に就職するか、薬剤師か迷っているのであれば、進級時にコースの選択ができる大学を選ぶのは一つの手段です。

ただし、6年制を卒業しても、MRなどで企業に就職する人はいます。企業への就職したとき、どんな業種を希望するのかを考えましょう。

薬剤師で地元に就職できれば良い、と考えているのであれば、地元への就職が強い大学を選びましょう。

自分の実力よりやや下の大学でも構いません。むしろそうであれば、成績優秀者になれる可能性があるので、地元+成績優秀者として就職がかなり有利になります。

学力が振るわない、つまり学力が低い方は「この際、4年制でもいい」という理由で、底辺大学の薬学部4年制への進学は考えた方がよいと思います。

かなり就職に苦戦することは間違いありませんし、就職したとしても、給与が低い職種になりがちです。

「行ってから将来を考える」が許されるのはかなり偏差値の高い大学には入れる人だけと考えて下さい。

志望する段階で、はっきりした人生プランがないと、薬学部に行ったことが無駄になりかねません。

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